クマムシは極限環境下で驚異的なストレス耐性を持つ。乾燥環境下では体内の水分を低下させ, 丸い樽の形状(Tun状態)をとる。乾眠を行う生物種は乾眠移行に時間を有するものが多く, 水の代わりに生体成分などを保護するためトレハロースやLEAタンパク質などを大量に合成し, 高い乾燥耐性能力を獲得している。しかし, ヨコツナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)はmRNAレベルの遺伝子発現において活性状態と乾燥状態で差異がみられずトレハロースの蓄積がない。これらにより, タンパク質の発現制御よりも, 翻訳後修飾によって乾眠状態に移行していることが推測される。同種のHypsibius dujardini(ドゥジャルダンヤマクマムシ)は弱いながらも乾燥耐性を持つ事が報告され, R. varieornatusに比べ飼育効率が良く細胞系譜が明らかである。そこで本研究では,H. dujardiniが乾眠状態に移行する際に, どのタンパク質のどの部位のリン酸化が変動しているかを定量的かつ経時的に把握するために乾燥応答のシグナル伝達経路の解明することが目的である。乾眠移行時のリン酸化プロテオームの経時的変化を見るには多検体の測定が必要だが, クマムシの試料数の確保が困難であることから, 微量試料でリン酸化プロテオーム解析を確立する必要がある。そのためH. dujardiniの測定法を安定させるために前処理のステップと測定のステップで検討し乾眠移行の経時的なリン酸化プロテオームデータを取得した。リン酸化部位を280個同定し, 経時的に増加していくタンパク質を6個, 減少していくタンパク質を4個得ることが出来た。
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