眼は視覚を通じて光を受容し, 外環境を認識するための非常に重要な感覚器である。したがって眼を失えば著しくQuality of Life(QOL)が低下することが容易に予測される。眼の表面は常に涙液により覆われている。涙液は瞼を円滑に動かす役割や, 外来物質を洗い流すなどの役割を担うが, 免疫グロブリンA(IgA)やリゾチームなどの抗菌性のたんぱく質も含むことも知られている。このように涙液は眼を保護する重要な役割を有するが, 涙液に含まれる低分子化合物•細菌叢についての知見は乏しいのが現状である。そこで本研究では, 健康な人の涙液にはどのような低分子化合物が存在し, また細菌叢が構築されているのかを調べる目的で研究を行った。健康な人の涙液の状態を定義する比較対象として, 近年増加しているアトピー性角結膜炎(AKC)患者の涙液試料を供試した。これら健常者とAKC患者の涙液サンプルを供試し, キャピラリー電気泳動•飛行時間型質量分析装置(CE-TOF/MS)および次世代シークエンサ一を用いて涙液中の代謝物および細菌叢について網羅的に解析した。得られたデ一夕を比較解析することで, 健康な人の涙液プロファイルの評価を行うとともに, AKC患者の涙液プロファイルから疾患との関連を考察した。結果, 涙液中細菌叢の網羅的解析から, 健康状態に関わらずアクネ菌や乳酸菌が涙液細菌叢の大部分を占めることが明らかとなった。同時にLeuconostoc属菌やLactococcus属菌などの乳酸菌は健常者に多く, Burkholderia属菌やSthaphylococcus属菌, アクネ菌などの病原菌はAKC患者に多いことが明らかとなった。メタボローム解析結果からは全アミノ酸に対する個々のアミノ酸の割合がAKC患者の炎症度と関係している可能性が示唆された。複数のオミクス解析の結果から, 涙液研究の新領域を開拓することに成功した。
|