生体内の全代謝物(メタボローム)を解析対象とするメタボローム解析は, in vivoで起きている反応の概要を俯瞰して観察できる事から, 様々な生体現象の解析手法として近年普及しつつあり, 反応系の上流で起きている変化の逆行的な予測も可能にすると期待されている。本研究ではメタボローム解析による様々な生命現象の総合的な理解を目的として, 「高学習能モデルラットが有する高学習能のメカニズム解明を目指したメ夕ボローム解析」「変性性認知症における血清, 唾液のメ夕ボローム解析」の二つのテーマについて解析を行った。「高学習能モデルラットが有する高学習能のメカニズム解明を目指したメ夕ボローム解析」では, 学習試験を用いた選択的交配によって生得的に高い学習能を持つようになったラットの系統を, 元となった系統と比較する事で, その高学習能のメカニズムを探った。学習試験後の解剖によって得られた大脳皮質, 海馬, 及び学習試験前後に採取した血液の時系列データから, 高学習能モデルラットでは分岐鎖アミノ酸が顕著に増加している事が分かった。「変性性認知症における血清, 唾液のメタボローム解析」では, より簡便で迅速な病型診断を目的として, 病因の異なる三種の認知症, アルツハイマ一型認知症, 前頭側頭型認知症, レビー小体型認知症から得た血清, 唾液の比較解析とマーカー探索を行った。結果として, 血清では6つ, 唾液では2つの物質が認知症で有意に変化している事が分かった。また物質名の同定されなかった未知の物質も含めたノンターゲット解析の結果, 血清で特定の病型間の診断を可能にする物質候補が得られた。本稿では, 各テーマにおけるこれらの成果をダイジェストとして報告する。
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