本論文では、「障害者雇用促進法」に基づく、障がい者雇用促進のための一制度である特例子会社制度によって設立された全国の特例子会社の経営について、2011年4月現在設立されている全312社を対象とした二次資料調査とインタビュー調査により事例研究を行い、設立形態や事業運営、採用や教育、雇用管理、財務などヒト、モノ、カネといった経営資源等に関して多角的に細かく分析を行い、特例子会社の経営戦略や経営管理がどのような考えのもとどのような戦術によってこれまで行われてきたのか考察し、実態を明らかにすると共に、「特例子会社における卓越した経営戦略のモデル図」として体系化を試みた。最後に特例子会社の経営における課題を明らかにし、その対応策について考察した。
まず、事例研究をもとにした特例子会社の経営分析から明らかになったことを述べる。特例子会社の経営においては、「障がい者の雇用の創出し、維持すること」を第一義として経営されており、その意義を長期的に実現させていくために、特例子会社それぞれがヒト、モノ、カネといった経営資源を活用し、また親会社や国、地方自治体などの公的機関などから支援も受けながら経営を続けていることが明らかになった。さらに、その経営資源の活用の仕方や特徴、また設立の経緯や経営方針、経営戦略については、同じ特例子会社であっても会社によって考え方が異なり、多種多様であるという実態も明らかになった。
次に、上記のような特例子会社の経営分析と白鳳大学の栁川孝之氏により提唱された「日本企業の卓越した経営戦略のモデル図」をもとに「特例子会社における卓越した経営戦略のモデル図」を新たに作成した。このモデル図から、特例子会社における卓越した経営を実現させてゆくための戦略が示した。その戦略とは、経営者や社内施策により、共感・理解といった「価値的尺度」により、社内外における特例子会社に対する組織内コンセンサスを形成し続けるとともに、長期維持のための黒字経営の実現という「業績性尺度」を達成するためにヒト、モノ、カネといった経営資源を活用したあらゆる経営活動を「収益確保」へと結び付けられるかということと、さらに企業規模の拡大という「成長性尺度」として特例子会社の存在意義である障がい者の雇用確保のために自社の障がい者雇用者数の増加につなげられるかということを軸に経営の意思決定を行っていくことである、と結論付けた。
最後に、特例子会社が今後直面する課題については、①法定雇用率を超えたレベルでの障がい者の雇用増に対する新たな大義、②収益を確保できる業務が不足したり、まったく確保できない可能性、③公的支援の打ち切りによる経営への影響などを指摘し、などを指摘し、それぞれについて対処法を示した。
以上が、本論文の要旨である。

修士学位論文. 2011年度経営学 第2713号