近年、企業におけるグループ内の資金効率化の必要性が高まっているといわれている。しかし、多国籍企業の場合、グループ内での資金移動は、国際的な分業化やグループ内の取引の多様化に伴い、複雑化し、税務リスクも増加しているとみられている。特に日本への資金還流を困難にさせる主な要因として、日本の税制面の問題があるといわれていた。外国子会社の利益を国内親会社に配当として分配すると、世界的にみて一般に高いといわれる日本の法人税を課せられることや、外国税額控除に煩雑な手続きが必要となることなどの理由により、多国籍企業が外国子会社に利益を留保するケースが多くみられた。
しかし、2009年4月に開始する事業年度から、外国子会社配当益金不算入制度が導入され、一定の条件を満たす外国子会社から国内親会社への配当が益金不算入となった。これにより、外国子会社の利益を国内親会社に移動させることが従来に比べ容易となり、多国籍企業のグループ内での国内親会社への資金還流促進に効果があると期待されていた。しかし、いまだその効果を検証した研究はなされていない。
本研究では、外国子会社配当益金不算入制度の導入前後における、多国籍企業のグループ内の国内親会社への配当による資金還流の行動変化について検証を行った。その結果、導入以前より、多国籍企業グループ内において、国内親会社の業績が低迷した場合、また外国子会社の業績が好調である場合に、国内親会社への配当を増加させる傾向があり、当該制度導入以降においては、それらの傾向がさらに強まった可能性があることを示唆する結果を得た。

修士学位論文. 2011年度経営学 第2702号