企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」の公表により、包括利益の明示的な計算・表示が2011年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から義務付けられることになった。包括利益情報は従来からアクセス可能な状態にあり、表示されているに等しい状態にあったにも関わらず財務諸表上に明示することに如何なる意義があるか、という筆者の問題意識により本研究を試みた。
本研究は、利益指標としての純利益と包括利益の優劣比較を価値関連性の観点から行い、包括利益の意義を説明する。実証研究の結果、純利益と包括利益の株式リターンに対する価値関連性に関しては明確な優劣はつかなかった。だが、純利益のみの情報よりも純利益と併せてその他の包括利益を加えた方が株式リターンとの関連が強く、その他の包括利益には増分情報内容があることが判明した。また、その他の包括利益の構成項目ごとの分析では、純利益と併せてその他有価証券評価差額金、為替換算調整勘定、繰延ヘッジ損益の当期変動額を表示する場合には、増分情報内容があることが判明した。
追加分析では、営業利益を所与とした場合の営業外損益、特別損益等、その他の包括利益の増分情報内容を検証した。その結果、その他の包括利益には増分情報内容があり、特別損益等には劣るもの株価形成にも影響を与えるという結果を得た。
これらの結果から、純利益と明確に区分した上で、その他の包括利益も併せて開示することは重要だと結論付ける。財務報告の主要な目的は、投資家の意思決定に有用な会計情報を提供することにあるが、純利益と併用して包括利益情報を開示する場合、その他の包括利益は株価形成にも影響を与えることから、投資家の意思決定に有用な会計情報を提供すると言える。よって、これらの情報を財務諸表上の構成項目と位置付けた上で、きちんと損益計算書を経由させ、純資産の全ての増減理由を利害関係者に開示することは財務諸表の透明性を向上させると結論付ける。

修士学位論文. 2011年度経営学 第2626号