ランデブドッキング(RendezVous Docking: RVD)技術は, 宇宙空間で高速に飛行する宇宙機同士を接近・結合させる技術である. RVD技術は, 月へ宇宙飛行士を送る或いは軌道上活動拠点(宇宙ステーション)を組立てるために必須の技術として, 1960年代から米国, ロシアを中心に研究・開発されてきた. RVDを行うためには, 誘導制御機能に加え, 両宇宙機の相対位置, 速度を推定するための航法機能が重要である. RVDを行うための航法センサとしては, これまでは, スペースシャトルやソユーズ, プログレスで主に電波レーダが使用されてきた. しかし, 電波レーダは, 長距離, 広域計測が可能な利点を有する半面, 計測精度が低いという欠点がある. そこで, レーザレーダ(Rendezvous Radar: RVR)とカメラセンサ(Proximity Sensor: PXS)からなる光学航法システムを搭載した技術試験衛星Ⅶ型によるRVD実験を行い,光学航法システムが自動RVDに適用可能であることを世界で初めて実証した. また, 高精度である光学航法システムの特徴を生かし, チェイサ衛星が秒速1cm程度の接近速度で接近, 非接触でターゲット衛星の捕獲を行う低衝撃ドッキングを実現した.
光学航法システムは, 電波レーダを使ったシステムに比べ高精度であるが, 太陽干渉やセンサ間の光学干渉が起きる欠点がある. 本論文ではこれら光学干渉に対する設計指針を明らかにした. ETS-VIIの光学航法システムは, 同様なランデブ光学センサである米国のAVGS(Advanced Video Guidance Sensor)や欧州のRVS(Rendezvous Sensor)と異なり, 研究段階において宇宙開発で最も重視される信頼性を高めるためシンプルな光学系が採用された. 具体的には, RVRでは, スキャン機構を用いずレーザ光を広角に広げて放射し, ターゲットからの反射光を得る方式, PXSでは照明光源とカメラの光軸を同軸配置ではなくカメラの周りに稠密配置する方式がそれぞれ採用された. その結果, RVR, PXSとも計測領域内での光量の確保に課題が生じたが, 本論文で示す以下の対策を行った結果, 信頼性の高い光学航法システムが実現可能であることを明らかにした. RVRに関しては, レーザレーダを広角に照射した場合の簡易な光回線の光学伝播式による解析結果が軌道上実験結果と良く一致することを示し, 遠距離での光回線成立性を確認した. PXSに関しては, CCDカメラ-LEDアレイ-CCDカメラの離角が大きくなるドッキング近傍域での光量低下が予測されたため, ターゲットマーカCCRの反射面の角度を僅かに傾ける改善策を提案し, 解析及び軌道上実験によって改善効果を確認した. これらの解析, 設計手法は今後のレーザレーダ, カメラセンサの設計に有効に活用することが可能である. さらに将来の宇宙活動における光学航法システムの適用可能性を検討し, ETS-VIIで開発・軌道上実証した光学航法システム及びそれらを拡張したシステムは, 月・惑星探査等や軌道上での推薬補給や構造物の組み立て等, 将来の宇宙活動において幅広く適用可能であり, 今後の宇宙活動におけるRVD技術の発展に大きく貢献可能であることを示した.
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