本論文は, 没入型の錯覚体験システムにおいて, 記録情報に対する人間の知覚に注目し, 現実には「いま・ここ」には実在しないが, 「いま・ここ」に居ても違和感の無い記録されたバーチャルな人間が「本当に目の前に居る」とユーザに信じ込ませる錯覚体験の実現を目的とする. そして, それを実現するための手法として, "Substitutional Reality"の概念に着目し, 聴覚情報を主体とする「会話」インタラクションを用いたシステム"Reality Jockey"を提案するものである. 本システムには, 予め記録された会話音声とライブの会話音声をユーザに気づかれないよう均質化して適切に混在させる機能, および記録された会話音声とユーザの間において, 相互作用する違和感の少ない会話インタラクションを柔軟に成立させる機能を備えている.
本論文では, 会話の対人構成・種類に沿って, システムを三段階に分けて開発し, 各システムに対してチューリング・テストを行った結果, 本システムの有効性を確認した.
従来から, 視覚情報を主体とする錯覚体験システムや, 人工知能アプローチによる対話インタラクションの研究には様々な取り組みがあるが, 本論文で提案するシステムは, これまで注目されていなかった「会話」を体験の中心に据えた, 聴覚情報を主体とする没入型の錯覚体験を可能にする点において, 主な貢献がある.
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