近年の高年齢者人口の増加傾向は, 我が国だけでなく世界的に観測されている現象である. 国連人口局(United Nations Population Division) 報告によれば, 2001年から2050年へかけての世界総人口の増加が1.5倍にとどまるのに対して, 80歳以上の人口は8倍に増加すると推計される. 我が国における高齢化はより急激である. 国立社会保障・人口問題研究所(2002)の推計によれば, 総人口が2001年の1.27億人から2050年の1.01億人へと減少する中で, 65歳以上の割合は18% から33%に増加すると予想されている. そのような高年齢者層の人口増加の背後には, 一方で出生率の減少があり, 他方で死亡率の低下がある. しかし, 最近の年金財政問題を考えるとき, 死亡率の低下の影響の方がより緊急な課題であろう. 将来死亡率の不確定性は, 年金計算におけるいわゆる「長生きリスク」(longevity risk) を引き起こす. そのような動きを背景にして, アクチュアリアル・サイエンスにおいて, 死亡率の暦年変化を記述する動態的なモデル化の試みが急である. 現在最も広く利用されている将来死亡率予測モデルは, Lee and Carter(1992)による, いわゆるLee-Carter 法である. しかし, この手法に対する統計的な観点からの考察は十分になされていないように思われる. 本稿では, 双線形回帰モデルとしてLee-Carter 法を捉え直し, 我が国死亡率データへの適用を通して, その意義と限界を探る.
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