本稿の目的は、日本の経済成長にともなう家計の分布構造の変化が、過去および将来の消費支出パターンにどのような影響を及ぼすのかを数量的に評価することにある。このとき、所得水準や価格ばかりでなくその世帯の特性(世帯属性)を前提として合理的におこなわれる個別家計の消費行動とその集計プロセスが明示されている一致集計理論(Exact Aggregation Theory)にもとづくトランスログモデルが分析され、さらに安定的な推計値を得るために住居や耐久消費財といった家計の実物資産保有の影響が考慮されている点に本研究の分析上の特徴がある。また、モデルのすべての構造パラメタを推計するために、家計属性および資産の情報を含んだ詳細な横断面資料と価格や支出ばかりでなく資産蓄積と家計分布の変化をしめす時系列資料が同時に用いられている。その結果、(1)世帯規模・世帯主年齢・居住地等の家計属性が異なることによって消費構造は有意な差異をしめすこと、(2)このとき実物資産保有状況を考慮するのとしないとでは結論に決定的な影響をおよぼすこと、(3)推計されたパラメタは積分可能性条件を観測値上ばかりでなく広い範囲で満たしていること、(4)過去の分布構造の変化は明らかにマクロの消費パターンにランダムではない系統的な影響を及ぼしていること、が明らかになった。