ここに紹介する『十二月』は、正式な題名ではないが、十二ヶ月の行事を、解説本文とともに、各月一場面ずつの絵を付した絵巻物である。　同じ内容の絵巻は、いくつか残されているが、あまり注目もされず、翻刻・紹介もほとんどされずにきた作品である。現在に伝わるほとんどの伝本が、江戸時代前期に制作された絵巻物であることから、おそらくは、内容の成立も江戸時代前期であると思われる。　本作品は、いわゆる物語ではないが、多く作られた御伽草子や幸若舞曲と同じような装丁をしていることから、直接の制作者は、絵草紙屋周辺であろう。おそらくは、大名家等の注文に応じて制作されたものと思われる。内容は、十二ヶ月の行事を描いたものだが、その中に説話的・物語的な内容も含まれている。成立の時代から無理にジャンルに入れるとすれば、仮名草子ということになろうか。　諸伝本は、慶應義塾図書館本以外に、チェスタービーティ図書館蔵『十二月あそび絵巻』、架蔵『十二月物語』（挿絵欠）、大阪青山短期大学蔵『月次のことぶき』等がある。いずれも題名が異なるが、題名は後に付けられたものもあり、本来の題名は不明である。実は、慶應義塾図書館本の題名も、「十二月」の下が欠けており、本来はこれに続く文字が存在したようである。　なお、慶應義塾図書館本とチェスタービーティ図書館本との簡単な比較を、拙稿「同筆同一作品の絵巻」（『むろまち』第八集、二〇〇四年三月）に記した。　慶應義塾図書館本の書誌は以下の通りである。　　番号、一三二Ｘ・九三　　形態、絵巻、二軸　　時代、﹇江戸前期﹈写　　寸法、縦三三・二糎　　表紙、紺地金繍表紙　　外題、「十二月」（下部欠落か）　　内題、なし　　料紙、下絵入り斐紙　 字高、二六・二糎　　奥書、なし　　挿絵、上・六図、下・六図　以下に、慶應義塾図書館蔵『十二月』を翻刻する。翻刻に際して、本文は底本のおもかげを残すように努めたが、漢字・異体字はおおむね現行書体に改めた。また、私に句点・読点・「　」『　』括弧等を記し、改行も加えて読解の便宜をはかったが、煩瑣になるので（ママ）は記さなかった。最後に、挿絵を各月一枚ずつ順番に掲載した。