昨今, とりわけIASBやFASBといった会計基準設定機関において, 保険会計に関する議論が活発に行われている。本稿では, 保険契約の捉え方や保険負債の捉え方が, 保険負債の測定や包括利益計算書(損益計算書)の表示を規定するという考え方のもと, これらの点に注目して, 保険会計をめぐる議論の変遷を検討する。
まず, IASB(IASC)の初期の公表物では, 保険契約を金融取引として捉えて, 保険負債を(仮想的な第三者に対する)支払義務とみて, 現在出口価値で測定していると整理される。包括利益計算書(損益計算書)の表示については, 一つの公表物を除き明確な提案はなされていないが, 保険契約を金融取引として捉える場合には, 収益と費用の対応関係を表示するのではなく, 保険負債の測定差額を当期の損益として計上することが適切である。つぎに, IASB及びFASBの2010年の公表物では, 初期の公表物から大きく変化し, 保険契約をサービス取引として捉えて, 保険負債を履行義務とみているといえるが, 一方, そこで提案されている保険負債の測定や包括利益計算書(損益計算書)の表示は, 保険契約を金融取引として捉えて, 保険負債を保険契約者集団からの預り金とみる立場に基づくものである。よって, 2010年の公表物における提案については, 保険契約の捉え方・保険負債の捉え方と保険負債の測定との間の「ねじれ」と, 保険契約の捉え方・保険負債の捉え方と包括利益計算書(損益計算書)の表示との間の「ねじれ」という二つの「ねじれ」が生じていると指摘することができる。そして, 2013年の公表物のうち, IASBの再ED(2013)では, 二つの「ねじれ」のうちの一つが解消され, 一方, FASBのED(2013)では, 両方の「ねじれ」が解消されたと捉えられる。従って, FASBのED(2013)の提案の方が, IASBの再ED(2013)の提案よりも, 首尾一貫していると整理される。
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