日本的雇用制度変革の必要性に関する議論は, 主として経済学や経営学の枠組みの中でなされてきた。しかし, こうした議論にもかかわらず, 新規学卒採用から定年制までの雇用を基調とする日本的雇用制度は変質を遂げながらも「崩壊」の兆しは表れていない。このことは, 今後の日本的雇用制度を考える場合, 他の要因が重要であることを示唆している。
本稿では, 須田敏子『戦略人事論』に続いて, 制度社会学の観点から日本的雇用制度を取り上げたジョージ・オルコット『外資が変える日本的経営』と山内麻理『雇用システムの多様化と国際的収斂』を検討する。
オルコットと山内は, 前者が企業買収と脱制度化, 組織フィールドを取り上げているのに対して, 後者は, 外資系企業との人材獲得競争による脱制度化や組織フィールドの変化を取り上げている。また両者共に, 一部の企業では組織フィールドの境界を跨ぐ移動が観察されるものの, 公式な制度変更, 例えば従業員主権から株主資本主義, 或いは日本的雇用制度からアングロサクソン型への脱制度化は認められないとしている。
ただし, オルコットが日本の従業員主権の「変わらなさ」を強調しているのに対して, 山内は「下からの変化」を強調することによって, 将来の制度変化やアングロサクソン型への「収斂」(の可能性)について, より肯定的である。
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