資産負債観によっては, 負債性引当金を合理的に説明できない, ということの論証が筆者の当面の課題であるが, 前稿(『三田商学研究』第54巻第2号・第4号)においては, 特別修繕引当金を検討したので, 本稿では, 製品保証引当金を俎上に載せることとしたい。
この製品保証引当金についても, 一般的には, 負債性引当金説が妥当とみなされているが, それに対して, 太田正博により, ユニークな学説が主張されている。すなわち, 製品保証引当金繰入損を, 負債性引当金説は費用事象とみなしているのに対して, この学説は収益事象として再構成しているのである。そうした特質に起因して, きわめて優れた理論体系になっていると言ってよいであろう。
しかし, その反面, 製品販売取引と修繕用役販売取引とを一連の取引とみなしている点では, 負債性引当金説の考え方を残しており, そのために, 修繕実施についての合理的説明に成功していない。この学説を, ここでは収益控除説とよぶことにする。
この点, 筆者は, 製品販売取引と修繕用役販売取引とを別個独立の事象と理解しており, そのことにより, 収益控除説に関する上記の問題点を治癒していると考えている。こうした理解を, ここでは, 収益控除説とは区別して, 前受金説と定義しておこう。
以上のように, 製品保証引当金にかかわる計算対象を, 費用事象から収益事象として再構成すること, および製品販売取引と修繕用役販売取引とを一連の取引から別個独立の取引として再構成することによって, 製品保証引当金を合理的に説明できる, というのが筆者の考えである。
本号では, まずIにおいて, 製品保証引当金に関する以上のみっつの学説を整理する。そしてそれに基づいて, IIにおいて, 負債性引当金説と前受金説との比較により, 端的に前受金説の妥当性を論証する。そのうえで, 負債性引当金説の理論的問題点をIIIで明らかにする。
そして, 次号以下において, 収益控除説の理論的問題点(IV), 前受金説への批判に対する反批判(V), 収益費用観・資産負債観に依拠する見解の理論的問題点(VI)を, 順次検討することとしたい。
|