企業の決算政策については,これまで主として制度会計論の一環として、公正妥当な企業情報の開示とか,適正な利益配分,株主や債権者等の利害の調整,株価形成のメカニズムと決算政策の関係といった視点から論じられる例が多く,決算政策を行う経営者の立場から,企業の経済性に焦点をあてながら体系的に検討したものは余り見かけない。本稿は,企業の決算政策の問題をマネジメントの視点から取り上げ、企業の経済性に焦点をあてながら分析,検討することを意図したものである。具体的には,代表的な決算政策について,財務会計上の利益を大きく,または小さくするという決算政策が企業の税引後キャッシュフロー利益に及ぼす影響を,経済性分析の手法を用いて整理し,これを一般化してグラフにすることを試みた。第1節では,問題意識と研究のねらいを要約的に述べたあと,決算政策の基本的分類を示す。第2~7節では,その分類に従って,代表的な決算政策を取りあげ,経済計算的な視点からそれぞれの特徴を明らかにするとともに,モデルの一般化とグラフによる分析を展開する。第2,3,4節では,資産の費用化のタイミングを変化させる決算政策の代表例として,棚卸資産,固定資産,および有価証券をめぐる問題を取りあげる。第5節では,負債を操作して収益または費用を変化させる決算政策の問題を,第6節では資産を操作して収益を増減させる決算政策をそれぞれ取りあげる。そして,第7節では,資産と負債の差異を変動させて利益を操作する例として,社債の償還をめぐる決算政策について論じる。最後の第8節では,前節までに明らかになった決算政策の構造をまとめ,残された課題等についても指摘する。
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