このノートは,現行ドイツの商法第266条の貸借対照表シェーマの分析を行っている。ところで,商法は,EC指令第4号,第7号,第8号の国内化のために改正されたものである。そこで,先ず,このEC指令第4号第9条で規定された貸借対照表シェーマと商法のそれとを比較し,商法のシェーマの特徴を明らかにした。次に,株式法第151条により旧来のドイツにおける貸借対照表シェーマとの比較も行い,同じ様に両者の相違を分析し,商法のシェーマの特徴を明らかにした。つまり,現行ドイツ商法のシェーマの特徴を明らかにするために,このような比較分析の手法を用いた。この作業により次のことを指摘した。貸借対照表に損益計算の機能を与えるかどうかは貸借対照表論すなわち会計学にとって一つの重要な問題点となっている。そして,もし損益計算の機能を認めるのであれば,これに見合って,利益あるいは損失の貸借対照表における表示位置も自ずと決まるはずである。即ち,貸借対照表の末尾に表示されるのが妥当である。これについて,EC第4指令,株式法ともに,損益を貸借対照表の末尾に表示する方法を採っている。にも拘らず,商法では,末尾に置かず自己資本の中に表示する方法が敢えて選ばれた。ということは,貸借対照表に直接,損益計算の機能を求めないことが暗示されている。そうであれば,損益計算書にこの機能を求めるしかない。今回,ドイツでは旧来の総費用法に加えて,売上原価法が新たに導入された。売上原価法は総費用法とは異なり収益費用対応の原則を重視し,収益に対応して費用を規定する。よって,損益計算書が重視される。このような損益計算思考の導入が貸借対照表の損益の表示に影響を与えたことを明らかにした。また,これと併せて,この思考の導入が貸借対照表の分類においても,株式法の法律的分類から機能的な分類へと移行したことも明らかにした。
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