会計は,企業の経済活動の描写の結果として作成された財務諸表を情報利用者に伝達する一連のプロセスから構成されている。しかるに,1960年代以降,財務諸表と情報利用者との関係の局面だけが重視され,その他の過程は,単にその手段とみなされる傾向にある。しかし,本稿は,企業の経済活動の把握過程の全体を規定する二面性概念こそが会計の特質をなすという見地から,二面性概念あるいはその具体的表現としての基本的等式を方法論的に検討するものである。これまで多くの基本的等式が提唱されているが,その考え方については,予め唯一の基本的等式を措定する立場と,仮説として多様な基本的等式を認めつつ,実践に対する説明能力によってその妥当性を決定する立場とがある。そこで,本稿は,まず計算目的の位置づけおよび等式の構築方法の点から,前者の欠陥を明らかにし,後者の妥当性を論証する。次いで,資本等式,ワルプ理論,貸借対照表等式および企業資本等式(いわゆる試算表等式)の4理論を取り上げ,計算対象の構成という視点から,それらの説明能力を検討する。企業資本等式(いわゆる試算表等式)の説明能力がもっとも優れている,というのが本稿の結論である。
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