わが国では,経済のバブル化の時期をはさんで,経済のストック化が進行したとされる。ストック化の指標としては,(1)世帯ベースでは金融資産の年間収入に対する比率の上昇(2)加えて家計資産のうちでの相続遺産の増加(3)マクロ経済的には,国民経済計算における総資産の対国内総生産比の上昇,等が挙げられる。こうした現象の老後生活ないしは,老後の生活保障に対する影響は,従来から様々な視点より論じられている。その1つは,老後生活水準の現状認識に関わるものである。高齢者世帯の消費水準は全世帯平均に比べれば確かに低いものの,前者の平均資産保有額は後者に比べてはるかに大きく,その傾向は住宅・宅地資産で著しいというものである。こうした認識の上に立ち,なおかつ同居比率も高いことを考えると,公的施策としての老後保障政策すなわち公的年金制度の大幅な見直しを必要とするとの論者もいる。加えて,多額の保有資産を市場を通じて流動化させることで,それを積極的に生かすべきであるとの議論もある。というのも,"長生きのリスク"のために高齢者は常に余生のための貯蓄に励まざるをえず,過少消費・過剰貯蓄に陥りやすいからである。しかし,こうした方途には一部問題点も指摘されており,その点の検討が必要とされる。合わせてパターナリズムに基づく年金制度の意義と,相互扶助としての私的年金の機能を再確認すべきところであろう。もう1つの論点として,本来的に高齢者世帯間では,消費水準・貯蓄水準格差が大きいとされているが,経済のストック化がこれをさらに助長していることの問題がある。また,これは老後の生活保障を市場に委ねる際にも生じる問題である。こうしたことは,政策にとり不安定要因となろう。そこで老後の生活保障にとって,経済のストック化により生じる過度の資産格差を是正するために,税制面での改善を行うことには大きな意味がある。
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