「日本のCSR元年」が提唱されてから約20年が経過しようとしている。Corporate SocialResponsibility (CSR) という概念は，20世紀後半における環境保護運動や企業不祥事増加の流れを受けた末に発展し，世界規模のあらゆる分野において無視することのできない要素になった。それはもちろん，企業経営においてもあてはまる。しかし一方で，CSR概念の急速な普及や市場・社会からの要請の増長に飲まれた国内企業のCSR経営は，明確な指針や戦略のないままに実施されているという視点も存在する。その中で，CSRへの取り組みが企業の財務状況に対して与える影響の如何がこれまで議論されてきた。この問の答えを明らかにするためには，学術的な側面から実務現場への提言を行うことが必要であると思われる。
本研究の目的は，企業が経営戦略の一つとして実施するCSR経営における企業統治への取り組みが，その財務評価に与える正の影響を実証的に考察することである。具体的には，二次データを利用した重回帰分析を行い，企業統治における「CSR基本」「リスクマネジメント」「倫理・法令遵守」「内部統制」と各財務評価の間における相互関係を分析した。結果として，「内部統制」への取り組みは財務の「成長性」と「収益性」に，「リスクマネジメント」への取り組みは財務の「規模」に対して，それぞれ正の影響を与えることを発見した。

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