【目的】本研究の目的は, 1960年代から2000年代のアメリカの図書館経営における経営戦略論の特徴を明らかにすることである。具体的には, 1)アメリカの図書館経営の現場で経営戦略論がどのように適用され, 2)経営戦略論が図書館界にどれほどの影響を与えてきたのか, また, 3)それがどのように図書館の現場で受けとめられてきたのかについて明らかにすることを目的とする。
【方法】図書館経営と経営学の教科書を基礎に選定した経営戦略論を対象に, 「事例分析」と「文献件数の調査」を行なった。事例分析では, 経営戦略論が図書館で適用された「事例」を介して, その詳細を記述することで, その特徴を明らかにした。また, 「文献件数の調査」では, 図書館情報学関連のデータベースに登録されている文献件数をみることで, 各経営戦略論に関する議論が図書館情報学の領域でどれだけなされてきたのかを量的かつ経年的に明らかにした。文献件数の調査によって, 経営戦略論の図書館界への影響の度合がわかる。
【結果】事例分析からアメリカの図書館における経営戦略論では, 「計画」と「評価」に重点が置かれていることが明らかになった。しかし, 経営戦略論に基づいて立案した経営計画を執行する段階になると, 適切に執行することができない事例が多かった。また, 図書館経営の現場では, 「経営組織論」に結びつきやすい経営戦略論を選択し, 外部環境を理論の中心に置く経営戦略論は選択しなかった。経営組織論の中でも, 特に組織学習につながった「コア・コンピタンス経営」は, 図書館員に積極的に受け入れられ, 他の経営理論に比べると適切に執行されていた。文献件数の調査からは, 1960年代以降, 営利企業を対象とした経営戦略論の影響は時代を経るごとに増し, 経営学の領域で経営戦略論が考案されてから, それが図書館に適用するまでの時間も縮まっていることが明らかになった。
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