定年制を定めている企業のうち、かなり高い割合の企業が、現在のところ60才以上に定年年齢を引き上げることを法的にも要請されているといえる。定年延長およびこれに伴う賃金制度の手直しは就業規則の改定によって行われることが多い。賃金制度の手直しが賃金・退職金の引き下げという形をとると、そこに賃金・退職金の面で従業員に不利益があるのではないかが問題となり、そのような不利益変更は果たして従業員を拘束するのかという法律上の問題が生ずる。新潟地方裁判所が昭和63年2月16日に出した第四銀行事件判決はまさにそのようなことが問題となった例の一つである。また大曲市農業事件は、７つの農業協同組合が合併した際に、定年年齢を延長したけれども、退職金の支給倍率を引き下げたことに関するものであって、これも本問を検討するうえで絶好の材料となるものと考える。