中世史研究会の口頭報告では、『平安遺文』『鎌倉遺文』所収文書を主な材料として中世経済の形成過程を再検討し、12世紀の後半に倉敷と呼ばれる荘園年貢の積出港、年貢輸送以外の船、「田舎市」「所の市」と呼ばれる地方の市、渡来銭の使用などの所見が現れ、第4四半期に国内の「商人」が史料に登場し、世紀の終わりまでに水運ネットワークの確立をみるなど、世紀前半から進行する中世荘園制の発展に促されるように中世的な流通構造が形作られていくことを確認した。そしてこれに先行して、11世紀前半に建築資材の交易が一般化し、12世紀前半には木材運送関係の津と、その種の津における津料徴収が（倉敷の出現や、一般の港における津料より早く）見られることから、木材を中心とする建築資材の商品化が中世的流通システムの成立に基底的な影響を及ぼしたとの見通しを得た。律令制の解体に伴って自立を強いられた職人層による商品生産への参入と並んで、商品流通をベースとする中世経済の性格を決定づけたのではないかと考える。
以上の研究成果を受けて、木材・瓦・鉄などの建築資材にも注目しながら『鎌倉遺文』などを用いて史料蒐集を進め、考古学の出土遺物や石造物のデータの状況も勘案して、分析の対象フィールドとして越前と近江を選定した。なお、塩の荘園として著名な弓削島荘が国史跡に指定されたことから、フィールドとしての適性を見定めるべく現地調査を実施したが、文献史料が比較的豊富なのに対して考古学の遺跡・遺物の情報が十分でなく、分析対象とするのを断念した。越前と近江については中世後期の史料の蒐集も進めているが、史料の点数が膨大でまだ整理途上であり、考古情報などとあわせての分析は本研究の期間終了後に持ち越すことになった。
I reexamined the formation process of the medieval economy using ancient documents in "Heian Ibun" and "Kamakura Ibun" as materials, and I discovered that in the 2nd half of the 12th century appear ports of shipment of the annual tribute of manors, various ships, country markets, metal money circulation, domestic merchants, and shipping network; these look like induced by the development of medieval manors from the 1st half of the century. Before that, start the distribution of building materials in the 1st half of the 11th century, ports for timber transportation and their toll in the 1st half of the 12th; that means commercialization of building materials had a fundamental influence on the establishment of the medieval distribution system.