環境もしくは自身の内包する自由エネルギーを消費し運動エネルギーへと転換することで、外力に駆動されることなく自律的に動く物質および集団を総じてアクティブマターという。本研究では、アクティブな集団を構成する粒子がもつミクロなカイラリティ（キラリティ）に起因して生じるマクロな電荷、運動量、熱などの移動現象、すなわちカイラル輸送現象の基本法則の解明を行った。
具体的には、アクティブネマティクス（液晶）と呼ばれる２次元系において、細胞間多体相互作用を記述するミクロな理論の数値解析、流体方程式に基づくマクロな理論のトポロジーを用いた解析、神経幹細胞を用いた実験の三者を定量的に比較することで、細胞のカイラリティによって励起されるエッジフローの基本法則を明らかにした。　細胞のカイラリティ(右巻き/左巻き運動)によって向きが決定されるエッジカレントが、細長いスタンプ状の領域で細胞を培養すると自発的に現れることを実験的に発見し、その理論を構築した。我々の理論によればこのカイラルエッジカレントは、細胞のネマティックな配向がミクロなカイラリティによってマクロに歪むことで、端に局在する一方向的な力がアクティビティにより励起され、その力と散逸のバランスによって局在する定常的なフローが生じると理解できる。
アクティブマターにおけるトポロジカル輸送現象の研究はまさに始まったところであるが、 これまでの理論研究は直接対応する実験が無い、もしくは操作可能な実験が難しい系に対応するものがほとんであった。一方、我々は神経幹細胞の集団を用いた理論と実験の比較により新奇な現象の予言と検証が可能である。実際、実験で発見したカイラルエッジフローを定量的に再現する理論を構築し、その理論をトポロジーに基づく手法で解析することで、トポロジカルケルビン波と呼ばれるモードの存在を理論的に予言し、実験で観測することに成功した。
Active matter is an nonequilibirum system composed of agents, which consume free energy of themselves or environments and generate self-sustainable motion. Here we report macroscopic transport phenomena originating from microscopic chirality of such active agents.
Specifically, we study a two-dimensional active nematics with a chiral interaction on the basis of microscopic agent based model, macroscopic active hydrodynamics, and experimental studies of neural progenitor cells (NPCs). We found that NPCs exhibit robust chiral cell flow localized on the boundary when they are cultured on substrates with edges. Furthermore, as predicted by hydrodynamic equations analogous to the Schrodinger equation, we find an edge-localized unidirectional mode in the spectrum of the coase-grained cell motion, which is nothing but the topological Kelvin wave in geophysics. These results establish a novel mechanism of flow in multi-cellular phenomena, and demonstrate how topological concepts from condensed matter physics arise in chiral active systems.