グローバリゼーションの概念を再検討し、アメリカを脱中心化した視点から見直そうとする文学研究の中で、アメリカを大陸としてではなく、移動性に富み流動的な本質を持つ島として捉える視座が生まれた。本研究は、この新思潮をアメリカ演劇・演劇史研究に援用し、アメリカ演劇をより相対的に捉えると共に、今までのアメリカ演劇史を再考する。具体的には、19世紀後半から20世紀初頭のハワイにおけるアメリカ人と日本人移民による演劇活動を再現・分析し、アメリカ演劇史の流れの中に位置づける。
本年度は、従来に引き続き、当該時期のハワイの新聞2紙ｰｰｰPacific Commercial Advertiserと『やまと新聞』（1895年創刊）ｰｰｰを中心に、日英両語による新聞から演劇関連の記事と広告をさらに収集した。とりわけ、『やまと新聞』の記事で言及された演劇文化を詳細に解析し、以下の6種に分類した。
①ホノルルの日本人芝居について（プロ・アマ）
②ホノルル以外の日本人芝居について(地方巡業の拡大)
③劇場について（専用劇場待望論、風俗改良運動と劇場浄化）
④営利目的以外の興行について（演劇の社会的役割）
⑤日本人以外の演劇との交流と軋轢について（観客層の異種混淆性）
⑥映画産業の台頭について
本研究は、ハワイにおいて演劇文化が形成されつつあった初期の演劇状況を再現する必要があるが、上演当時の正確な台本はほとんど残っていないため、同時代の両国語による刊行物、とりわけ新聞、年鑑、歴史書、旅行記に残された劇評、宣伝、ポスターなどの分析が有用なのである。
各論としては、本年度は、当該時期のハワイを中継地として発展した太平洋横断的な興行ネットワークの様相を明らかにしようと試みた。ハワイを中継した19世紀のアメリカ人旅役者が記した旅行記の収集と分析を行い、巡業の旅程と公演状況を確認した。この成果は次年度以降に公刊予定である。
By reproducing and analysing American theater and theater culture of Japanese immigrants in Hawai'i from the late 19th century to the early 20th century, this study aims to reconsider the conventional theater history that is centered on theater activities within the boundaries of the mainland U.S. and the Broadway / non-Broadway binary perspective.
This year, the researcher continued on the ongoing project of collecting articles and advertisements from English newspapers Pacific Commercial Advertiser and Japanese newspaper The Yamato Shimbun (first published in 1895). Especially, more than hundred articles from The Yamato Shimbun were classified and analyzed under the following six categories: 1. Japanese theater culture in Honolulu (both professhinal and amateur); 2. Tours outside Honolulu; 3. Establishment of theater buildings; 4. Non-profit performances; 5. Performances with mixed races and 6. Rise of movie industry. Collecting and analyzing materials on theater culture in newspapers as well as annals, historical writings and travel logs are particularly important for this study since play scripts rarely exist today.