ペンタセンはベンゼン環が五つ直線状に縮環した平面構造を持つ化合物であり, 可視領域に幅広い吸収能と高いキャリア移動度を持つ代表的な有機半導体材料である。また, 近年では, 会合状態で一重項分裂(SF)という最低励起一重項状態(S1)が中間状態を経て二つの三重項励起状態(T1)を生成する特異な光物理過程を発現することが多数報告されている。しかしながら, ペンタセンの合成変換は比較的困難であることから, 上述の物性の評価は固体もしくは溶液中における報告に限られている。そこで, 本研究では親水および疎水相互作用を利用した中空を有するナノチューブ構造の構築をめざし, ペンタセンの6,13位にそれぞれ疎水基と親水基を導入した両親媒性ペンタセン誘導体を合成した。また, 関連するペンタセン誘導体や参照化合物も合成し, 超分子集合体の作製と一重項分裂や電子/エネルギー移動などの光物性評価を行った。
両親媒性ペンタセン誘導体(計5種類)の合成はペンタキノンを出発原料として, 薗頭カップリングを用いて疎水基(アルキル)と親水基(エチレングリコール)をそれぞれ逐次導入した後, 塩化スズで酸化縮環することで達成した。親水基もしくは疎水基のみのペンタセンだけでなく, カルボキシル基やアルカンチオール鎖を有するペンタセンの合成も行い, 有機ー無機複合材料の展開も行った。親水性, 疎水性および両親媒性のペンタセンはいずれも良好な分子集合体の構築が確認できた。特に, 両親媒性のペンタセンではアスペクト比の極めて高いファイバー状の分子集合体の構築に成功した。一重項分裂やキャリア移動過程についてもそれぞれ確認でき, 光および電子機能性分子集合体の構築に成功した。金属および半導体ナノ粒子に修飾したペンタセンについては一重項分裂のみならず電子/エネルギー移動などの光物理過程との共役についても成功した。
Pentacene is one of representative organic semiconductor materials, which have efficient light-harvesting in the visible region as well as carrier transport properties. In addition, singlet fission, where one singlet exciton converts into the two triplet excitons, efficiently occurs in the dimeric and crystal forms. Thus, control of the internal structures of pentacene aggregates enables us to demonstrate the peculiar photophysical properties. In this work, we have reported on the first synthesis of amphipathic pentacenes substituted by both hydrophilic and hydrophobic chains at 6 and 13 positions together with the related pentacene derivatives. In all pentacene derivatives, the characteristic supramolecular formations were observed. The structural as well as photophysical and electronic properties were systematically examined.
|