本研究では, 南米チリでここ数年に実行に移された一連の選挙制度改革が, ラテンアメリカでは最も安定しているとされてきたチリの政党システムにどのような影響を与えるかについての予備的考察を行った。より具体的には, 軍政末期に制定された悪評高い「2名制」選挙制度が廃止され比例代表制が再導入されたことが, 昨年11月に実施された(大統領・)議会選挙の選挙過程・結果にどのような影響を及ぼしたのかに注目した。
今般のチリの選挙法改革のような選挙区定数と議席決定方式の大幅な変更による効果として, 一般的に「機械的効果」と「心理的効果」の存在が知られている。機械的効果とは, 制度変化の直接の効果により, 同じ投票結果に対して議席配分にどの程度の変化が生じるかを指している。この点でもっとも明白な効果は, これまでの二大政党ブロックによる事実上の議席独占の一角が崩れ, 拡大戦線(FA)をはじめとする新興勢力が躍進したことである。今回FAは, 下院で20議席を獲得したが, もし以前の制度のままであれば8議席にとどまっていた計算になる。
これに対し心理的効果は, 制度変化が有権者と各政党の戦略的行動に与える効果をさしている。有権者への影響としては, これまでの2名制の下では死票になることをおそれて小政党への投票を控えていた有権者の多くが, 今回は小政党に投票したものと思われる。この点は今後, 世論調査等の分析により明らかにしていきたい。
各政党の戦略的行動への効果については, 3月に現地調査を行い, 聞き取り調査を行った。大きな変化としては, 同一の選挙区に同一政党から複数の候補者が擁立できるようになったことにより, 競争原理が働き, 党内民主化と世代交代に前進が見られたことが指摘できる。
ただし昨年の選挙は制度変更後の最初の議会選挙であり, その効果はまだまだ限定的だったと思われる。今後, 選挙後の各政党・政党連合の動向, さらに上院の残り半数が入れ替わる次回選挙以降の結果を継続的に観察し, より長期的な検証を行いたい。
The aim of this study is to identify the effects of a series of electoral reforms realized in lasr years on the Chilean party system. More specifically, I focused on the effects of the abolition of the ill-famed "binominal" system and the (re)introduction of the proportional system on the results of the parliamentary (and presidential) elections of last November.
For that purpose, I examined the "mechanical effects" of the electoral system, on the one hand, but also the "psychological effects" on the voters as well as on each parties, on the other hands.
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