腸内細菌は消化管での消化吸収の補助や粘膜免疫システムの構築, さらにはビタミンの供給など種々の役割を担っている。一方で, 腸内細菌叢のバランスが崩れると, 大腸がんなどをはじめとする腸管関連疾患, アレルギー, 肥満などのメタボリックシンドロームの発症につながることが知られている。近年の報告から腸内細菌の構成は, 宿主の食習慣に依存し、大きく3つのタイプに分類されることが明らかになった。ゆえに腸内細菌をコントロールして腸内環境を良好に保つためには「食事」「腸内細菌」「宿主」の関係を理解しすることが重要であるが, この三者がどのようなメカニズムで相互作用しているのかは未だ不明瞭である。本研究は, 細菌叢解析と代謝物質解析を組み合わせたオミクス解析を行うことで, この三者間の関係を明らかにすることを目的としている。修士論文は高脂肪食またはプロバイオティクスの影響を考察する2つの章で構成されているが, ダイジェストではその中から高脂肪食が腸内環境に与える影響について記述する。高脂肪食が腸内細菌と宿主に与える影響を明らかすることを目的に、通常食または高脂肪食を52週間摂取させた人工フローラ定着マウスから経時的採取した糞便を対象として、16S rRNAクローンライブラリー法による細菌叢解析と、CE-TOF/MSによる糞便中代謝物質のメタボローム解析を行った。通常食群と高脂肪食群の腸内細菌プロファイルについて多変量解析手法の一つである判別分析を行った結果、高脂肪食群でLachnospiraceae, Oscilliospira, Prevotellaの割合が多く, Bacteroidesの割合が少ないことが分かった。またメ夕ボローム解析の結果, 高脂肪食群ではアミノ酸をはじめとして, 腸内細菌が産生することが知られているビタミンB6などの代謝物が減少していた。これらの結果は, 食習慣によって生じた腸内細菌叢の変化が, 腸内代謝物質にプロファイルに影響を及ぼしている可能性を示唆している。
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