本論は, 国際財務報告基準(IFRS)の公正価値測定が, わが国の伝統的な取得原価主義や実現主義の枠組に受容されるものであるのか, それとも両者には乖離があるのかという点を検討した。
1990年代の会計ビックバン以来, 従来の取得原価主義は内容を修正拡大し, 有価証券や棚卸資産の時価評価を導入したが, 利益計上における実現主義という基本的な枠組みは維持している。これに対し, IFRSの公正価値測定は基本的にすべての資産負債の時価評価を志向しているため, わが国会計基準の基本的な枠組みと対立するのではないかと懸念される。
本論では, IFRSの公正価値測定を評価方法別に, また利益計上される場合, 損失計上される場合に区分して上記の懸念を検討した。検討の結果, IFRSの公正価値概念の大部分が取得原価主義と整合することが認められた。しかし, 充分に市場に基礎づけられない公正価値で非貨幣性資産を評価し利益計上する場合においてのみ, IFRSの公正価値概念は取得原価主義と不整合が生じることが認められた。しかしこの不整合は本質的なものでなく, 市場評価される資産の範囲が拡大するに従い収斂するものであることが予想された。
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