小論は, 中国の産業別の労働投入推計の第一歩として就業者数の推計を試みる。労働投入の推計は全要素生産性分析において不可欠であり, 労働生産性の向上, 技術進歩のあり方, 部門間合理的労働配分の促進, 人的資本投資のあり方など, 労働の構造変化に関わる課題の研究にとっても重要である。本推計では, 中国に関する先行研究が少ない状況のなかで, 国有部門と非国有部門に分けて, 労働を量的変化と質的変化から捉え, 産業別×所有制別×性別×年齢別×教育歴別のように交差分類された5次元の就業者データベースを構築する。就業者数の推計で, これまで「統計の怪」といわれ一部反映されてこなかった農民工の問題に対応した。
主要な推計結果をまとめると, 農林牧畜漁業を含んだ全就業者に占める国有部門の割合は, 1981年の18.6%から2010年には8.8%まで下がった。農業を除けば国有部門の割合は1981年の54%から2010年には11.8%まで低下しており, 中国の労働力の9割が非国有部門に投入されていることがわかった。産業別にみると, 石油天然ガス採掘, たばこ, 電力・水道, その他サービス4部門における国有部門就業者のシェアは依然として5割を超えている。男女の比率をみると, 1981年の55.3%対44.7%から2010年には56%対44%となり, 顕著な変化は現れなかった。就業者の教育水準については小学校以下の教育しか受けていない就業者は1981年には2.6億人で, 2010年には22%減の2億人になった。1986年に導入された9年制義務教育制度がある程度功を奏したのである。高等教育を受けた就業者の数は年率12%で上昇し, 1981年の1%から2010年の10%へと大幅に拡大した。年齢別就業者数をみると高齢化の傾向がはっきりと現れている。15-24歳, 24-34歳いわゆる若年層両グループの就業者数はいずれも2003年頃から減少に転じており, 伸び率は両グループとも年平均0.6-0.7%にとどまっている。35-54歳の中壮年層就業者数は2005年を境に横ばいに推移しており, 2009年からは減少し始めている。55-59歳, 60歳以上の中高年層の増加率はいずれも年平均6%以上となっている。
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