【目的】図書館資料の状態調査において, 製本構造にも着目されてきている。特に, 接着剤のみで本文紙を綴じた無線綴じは, 耐久性に問題があるとされている。本研究の目的は, 大学図書館における無線綴じの実態を明らかにすると共に, 大学図書館が無線綴じをどのように認識し, どのように損傷図書に対応しているかを明らかにすることである。
【方法】利用頻度の高い図書を対象とした状態調査と, 大学図書館で蔵書管理を担当している職員を対象としたインタビュー調査を行った。状態調査では2009年慶應義塾図書館状態調査の調査項目を基に, 背割れの細分化, 損傷個所などを加えた。分析に際し, 情報の紛失に繋がり得るページ抜けを重要な損傷と捉え, 他の損傷との併発状況をみた。インタビュー調査では, 蔵書量の多い大学図書館を対象とし, 半構造化インタビューを行った。インタビューは文章化し, 質問項目に沿って整理した。
【結果】状態調査の結果, 1)ページ抜けの観点からも, 有線綴じよりも無線綴じの耐久性に問題があること, 2)ソフトカバーでホットメルトを用いた図書にページ抜けが多いこと, 3)ハードカバーで水性エマルジョンの無線綴じは, 背割れと同一箇所でページ抜けが生じる可能性が低いことが明らかとなった。インタビュー調査では, 1)大学図書館の職員は無線綴じが損傷しやすいと認識していること, 2)しかし, 損傷図書が無線綴じで製本されているかどうかは意識しておらず統計も取っていないこと, 3)他の業務との兼務, 予算の削減という状況下にあり, 無線綴じに対して問題意識を持って対応できていないことが明らかとなった。これらの結果から, 無線綴じの耐久性には問題があるにも関わらず, 大学図書館が損傷図書に対応する体制は整っていないといえる。
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